ホイールの真実5(解明編)

今回からホイールの真実・解明編です。

解説編を出した時に想定以上の注目を頂きましたが解説だけでは納得できないという方も多かった印象を受けました。自転車が発明されて200年、テンションホイールの歴史もそれと同等程度と考えるとその仕組をいまだに解明できていないということはありえないはずですが、文献を探してもテンション構造のホイールを誰にでも分かりやすくかつ実験付きで解説してくれるものがないようです。一方で機械学会なんかはホイールの基礎理論は古典的すぎて取り扱うことすらしないようです。またできる機械技術者は構造をぱっとみただけで理解してしまうようですが、多くの機械技術者でも間違った理解でいることがあるようです。解説編からだいぶ期間をおいて解明編を書いているのですが今回紹介する手法の提案をされた機械系技術者は誰一人としていませんでした。というわけでホイールの基礎理論というのは機械学会で取り扱われない簡易な古典的問題であるものの一般に理解し難い難問といったところのようです。

 

ところでホイール理論をマスターするとはどういうことでしょうか?それは、

スポークの変形の仕方を完全に把握する。

ということでしょう。荷重がかかった時のスポークの変形の仕方を把握することができればどこが壊れるか、どこを強化したら効率よく剛性を上げられるか、どこの肉を抜けば軽量化できるかの検討が立てられるようになります。つまりスポークの変形の仕方を完全に把握すること=ホイール理論をマスターすると言い換えられます。これさえできれば設計や対策は後付でいくらでも可能となります。今回はこのスポークの変形の仕方を把握する方法の紹介になります。

 

話は変わりますがここで本題に入る前に材料力学の基本の確認を行ってみましょう。
材料にかかる荷重の形態は大きく引張(圧縮)・曲げ・ねじりの3種です。
他にも色々ありますがここでは取り扱わないです。

ホイール理論を論じる時に1つだけ共通する見解があります。
それはスポークにねじれが発生しているとは誰も考えていないことです。
ですのでスポークの変形の形態の1つからねじれは除外します。

ここで引張と曲げがかかった時の応力を見てみましょう。
引張の時は当然全体が均一な応力となります。
実物の場合は寸法公差のずれの分だけわずかに応力がずれますがほぼ均一となります。

曲げの時は以下のようになります。
曲げの根本に行くほど引張応力が大きくなり、曲げの反対側の根本にいくほど圧縮応力が大きくなります。曲げの中間地点はいずれもゼロ応力となります。曲げの応力の出し方については材料力学で調べて頂くとすぐにご理解頂けますのでわからない方は調べてみてください。ここで重要なことは引張と曲げでは応力の出方が全く異なるという点がポイントになります。


さて話をホイールに戻しましょう。
SACRAではスポークは引張でしか使われないと解説していますが、一般にスポークには引張と曲げ、特に曲げがさまざまな形態で加わっていると考える人が多いようです。ちょうど以下のようにスポークが変形をしているんじゃないかと考えているわけですね。適当に4種類書いてみました。

だいたいこんな感じですかね。横力がかかった時は奥行き方向に同じような変形をしていると考えておられるのでしょうね。ではどうやって知るか?答えは簡単です。スポーク全体にひずみゲージを貼りスポーク全体の応力を計測すれば良いのです。ひずみゲージはパワーメーターに使用されていますので今さら解説の必要はないかと思いますが肉眼で見えない微小な応力を精密に測定可能なゲージです。

例えばこのひずみゲージを先程の曲げの根本に貼ると以下のようなデータが得られます。

逆に引張を受けている部材にひずみゲージを貼ると以下のようなデータが得られます。

この2つのデータ傾向よりスポークのどこで引張が起き、曲げが起きているのか判別することが可能となります。

でもスポークに貼れるような小さなひずみゲージってないのでは?と考えますよね?普通はそう考えますよね?

 

実はあるんですよ。。。スポークに貼れるサイズのひずみゲージが!!!

東京測器研究所のFLKシリーズに幅1.4mmのひずみゲージがあるんですよ。

これを2mmのプレーンスポークに以下の図のようにひたすら貼ります。ちなみに以下の図は実寸サイズで作図してあります。何箇所貼っても良いです。ただし1箇所につき90°置きに4枚ひずみゲージを貼ってください。カンパシャマルみたいな太い均一な長方形断面のアルミスポークだとより貼り付けしやすいと思います。そして計測する時はこの4枚を同時に測定して、そのひずみデータより曲げと引張を判別します。


これによりホイールに荷重をかけたときにどこで曲げ・引張がおきているか判別可能となりました。とりあえず実験室でやりたいのでしたら自転車をそのまま持ち込んで手で横力や縦力、ブレーキを掛けた状態でトルクを入れるとスポークの変形の様子がお手軽に観察できます。工業系大学の研究室でしたら計測装置があると思いますので相談してみてください。

でもこれだと実走できないから完全なデータにならないですよね?皆さんそう考えますよね?実走データじゃないと納得できないですよね?

 

実は実走できるんですよ。。。

方法は2つあります。1つはテレメータというひずみデータを電波で飛ばす装置を使う方法が正当なやり方です。ただし最低4チャンネル同時計測が望ましいのですがテレメータ装置は価格が高いので皆さんも揃えられないでしょう。ここはいささか邪道ではありますが、ホイールの中に以下の図のような構成で小型のデーターロガーとひずみアンプごとぶち込んでしまいましょう。サンプリング周波数は1000[Hz]でフィルターはなしが良いでしょう。データ量が多くなりますので1度の測定は1分以内程度に留めておくとデータ整理がやりやすくなりますよ。回転バランスが悪いって?1分位我慢してのりましょう!それと事前に無負荷で回転させて回転バランスがデータに影響しないことを確認しましょう。


さていかがでしたでしょうか?これでスポークの変形の仕方を把握可能となりました。到底不可能だと思っていたホイール理論の解明も思ったよりも簡単にできそうだと思いませんか?自転車ってむき出しの部品が多いので応力計測って実は簡単なんですよね。これで皆さんもホイールマスターになれますね。SACRAではこの実験装置を持っていないのと結果をすでに把握しているため開発に必要ないので当面は実験を行いませんがそのうちやりましょう。

 

【おまけ】

ところで実走時のひずみデータを多チャンネルで測定する方法を公開してしまいましたが、これが何を意味するか皆さんご理解されていますでしょうか?回転物の実走ひずみデータを取れるということは自転車におけるほとんどの部品の応力分布を測定可能になったのと同義になるのです。これはホイールマスターになるだけでなく自転車の応力分布マスターにも同時になれるということですね。これにより自転車の力学面はほぼ丸裸にでき皆さんの知りたかった情報のかなりの部分を得られるはずです。調子にのってリムの応力分布測定の方法も書いてしまいましょう!フレームにも使えますよ!他にもいろんな部品の応力も見れますよ!
リムやフレームのような負荷形態が不明(引張なのか曲げなのかねじりなのか)な場合は以下の3軸型ひずみゲージを使用します。ロゼットゲージとも呼びます。1箇所に対して3方向のひずみを測定することでベクトルの要領でその平面の最大主応力とその方向を特定できるという優れものです。

これをリムにびっしり貼り付けていきます。なんというかすさまじい力技ですね。頭悪いけど頭の良い方法ですね。ホイールを極めたい方は是非試してみてくださいね。応力全部見れますよ。

※一部画像出展東京測器研究所より引用。実験をされるときは安全面への配慮を必ず行いましょう。